小説

老練ラットは胡坐をかく〔8〕

 ◇  ◇  ◇  かつてのブロリーが使っていた子供用の衣装を貸してもらったガルハッタは、早速とばかりにパラガスへ生まれ変わった事情を打ち明けていた。 「生まれ変わり……死んだ者が再び生を受け新しい人生を始めるという概念か。にわかには信じがたいが。……本当にガルハッタなのだな?」 『別に信じなくても構わんがね。裏付けが欲しいんなら、そうだな……。赤子の世話の仕方がわからず頭を抱えていた若者の話でもしてやろうか? ブロリーの初めての行動ひとつひとつに感動して、初めて父と呼ばれた時に泣いていた父親の話とか?』  ガルハッタはパラガスに頼んで出してもらった水をちびちびと飲みながら、出会ったばかりの二人しか知らない記憶を脳内イメージと共に伝えた。  中身がガルハッタだと伝えることが出来ればもう何も隠すことはないと、ガルハッタは早々にテレパシーを使用し始めたのだ。  伝えようと脳内で思った言葉やイメージを他人の脳に伝える通信技術であり、これを使えば声を発して喋る必要はない。ガラガラ声の聞き取りに苦労する必要もなくなるということだ。 「もういいわかった。信じよう」  パラガスは驚き半信半疑ではあったが、自分たち以外は誰も知らないであろう過去の様子が脳内に流れてきて、不思議がりながらも納得していた。 「あの時は保育カプセルがなくて無事にブロリーを育てられるか不安だったんだ……」 『育ったじゃないか。あんなに大きく』 「ああ……そうだな」  ガルハッタは手にしていたコップを机に置き、保存食のジャーキーを小さく千切って口の中に放り込んだ。  クローン体になってからの初めての食事だが、問題なく噛み締め、味わい、飲み込むことができた。味覚が正常に働いて安心したが、同時にサイヤ人としての食欲を思うと不安が募るばかりだ。  もそもそと口を動かしながら、ガルハッタはテレパシーでパラガスに話しかけた。 『そんで、俺が死んで何年経ったんだ? お前さんもブロリーも、だいぶ様変わりしてるじゃないか。十年くらいかね?』 「ん? いや……五年ほどじゃないか?」 『五年? ……いや、だとするとブロリーはまだ十二才ってことかい? あれで? お前さんと同じ背丈だったぞ』 「サイヤ人は十五になると幼少期の姿から一気に成長する特性を持っているが、個人差があるからな。ブロリーは成長が早いタイプなのだろう。背が伸び始めたのは四ヶ月ほど前からだ。夜に唸っている様子を見かけるに、まだ伸びるだろうな」 『サイヤ人の成長痛はエグそうだな……』  ブロリーに同情していると、向かいの席に座っているパラガスは呆れた目をガルハッタに向けた。 「他人事だな。その体がブロリーのクローンならば、お前も同じ道を辿るのだぞ」 「あ゛っ」  思いも付かなかった事実にガルハッタの口から小さく声が漏れた。テレパシーでは鮮明だった子供の声は、水で潤した喉でもやはり掠れたままだった。 「まあ、丈に余裕がある衣装をあらかじめ用意しておくんだな。少なくとも大判の布が一枚あれば腰巻きにして過ごせる。成長は長くても一年ほどで落ち着くはずだ」 『……ああ……覚悟しておく……』  将来の自分に降りかかりそうな成長痛と今後の食料問題にガルハッタは遠い目をした。 「さて。人数も増えたし、俺はもう少し食料を集めるとしようか。ブロリーが戻ってきたらこの星を発つつもりでいてくれ」  椅子から立ち上がったパラガスは白いマントを翻し出入口へと足を向けた。  ガルハッタの知る以前なら必要な物資を集めたり情報を収集したりと数日ほど停泊していたが、今回は一晩すら待たずにとんぼ返りするつもりのようで。ガルハッタは不思議そうに首を傾げた。 『それは構わんが。妙に急ぎ足だな。どうした』  立ち止まったパラガスは振り返り、神妙な顔つきで呟いた。 「ここが惑星コスラだ、と言えば伝わるか? あまり長居はしない方が賢明だと思ってな」 『……ここが惑星コスラ? 滅亡間近だと言われてたあの星かい?』  ガルハッタは耳を疑った。何故なら、惑星コスラは生物実験が盛んには行われた結果、惑星の半分以上が異常生物に浸食されている、という情報を生前から掴んでいたからだ。 「滅亡間近? 危険だとは聞いていたが……いったいどういうことだ? 原因は判明しているのか?」  パラガスは今いるこの惑星が危険な星だという噂を耳にしていたが、詳しい状況や原因などは探れず、獰猛な動物や生き物がいるのだろうと推測していた。そしてサイヤ人である自分たちなら問題ないだろうと判断したからこそ、ブロリーのワガママを聞いてこの星に降り立ったのだ。 『……コスラには頭のねじが外れた妙な科学者が多くいてな。生物実験に執心し、生活に役立つ新しい生物を生み出そうとして、逆に災害を起こす存在を生み出しちまったと聞いている』 「災害を起こす存在?」 『雑食の花だ。虫食い植物を改良しようとして、なんでも捕食する化け物を作り出したらしい。星に住む人間の半数以上が被害に遭っていて、その花を駆逐する術が見つからないと近々滅亡するだろうと言われていた』 「そんなものが……いや、しかし我々サイヤ人ならなんとかなるのではないか?」 『どうかねぇ……確かにサイヤ人の力なら花も焼き尽くせそうだが、繁殖力が尋常ではないと小耳に挟んだからなぁ。最初期ならともかく、すでに星の半分は浸食されているだろうから触れない方が賢明ではある…………パラガスはこの星を存続させてぇのかい?』 「食料が豊かな環境の星は数が少ないからな……根無し草の俺としては、あればあるほど有り難いが」 『それは確かに。だが花の状態が昔のままなら、大地を掘り起こすほどのパワーで一瞬にして消し去るくらいでなければ、全ての花の除去は難しそうだぞ』 「むう……あまり気は進まんが、ブロリーに頼めばあるいは……」 『……まあ、可能性はあるかもしれんな……。しかし他にもキナ臭い噂があってな……いや、俺が死んで五年経ってるなら気にする必要はないかもしれんが』  お互いが腕を組み考え耽っていたが、ガルハッタはふと思い出した。ブロリーが飛び去ってからだいぶ時間が経過していることに。  宇宙船内での肉運びや着替え、自分の事情説明やこの星についての話など、細々としたことを含めると、そろそろブロリーが落ち着いて戻って来ても良い頃合いだ。 『……ブロリーは何してんのかねぇ。戻ってこないつもりか?』 「そうだな……さきほど超サイヤ人になっていたようだし、どこかで獲物でも射止めて小腹を満たしているのかもしれん。あの形態になると腹が減ると零していた」 『スーパーサイヤ人? もしや金色の髪になっていたあれのことか?』 「ああ……。そのことはまた後で話そう。まずは食料の確保を優先する」 『そうだな。じゃあ俺はブロリーを探しに行こうか』 →

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2025.02.11
▼身長 パラガスの身長は悟空より高いので180㎝以上はあると思います。 ブロリーは最終的に黒髪の状態でもピッコロより背が高くなるので、240cm以上には成長するのかな? 12歳でパラガスと同身長にしたのは、制御装置を付けられるあのシーンのブロリーが12歳だからです。 同じ12歳の悟空はブルマと出会い広い世界へ旅立ちました。悟空とブロリーを対照的に演出したかったのかもしれませんが、ブロリーって不憫なことが多いですね。生まれ持ったスペックは高いのに。そこも対照的。